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第5章 井上 翔太
3回目の質問にして、漸く、小鳥遊さんが重い口を開いた。

「…彼と、別れてん…」

クリスマス直前に?まぁ、やっぱり、って気も、したけど。
彼女に限って、仕事のトラブルで泣くとか考えにくいし。

しかし、もうちょっとタイミングってもんがあっただろうに。
いや、別に個人の自由だけどさ。

まるで1人でいることが悪みたいに、不当な寂しさを強調するクリスマスに、好き好んで別れなくても。この連休さえ乗り切れば、年末の慌ただしさに一気に飲み込まれていくのにな。

なんて、ホントに大きなお世話だろうから言わないけど。

「…不倫、やってん…」

思いがけないへヴィーな告白に、俺のキャパシティーは一気にオーバーフロー寸前になった。
話を聞くなんて言ってしまったことを、今更ながら猛烈に後悔した。

なんと答えたらいいものかわからないまま、時計を確認すると、8時55分。

9時をすぎると巡回がくる。ここは、ビルの共用ではなくて一応社内の占有スペースではあるけど、オフィスの外、と言う微妙な位置づけで。扉には鍵も掛からない。だから警備員が巡回してくる。一旦ココで受付して、商談や打ち合わせをしたり、まぁ来客に事務所内を簡単に見せない、且つ打ち合わせを事務員さんたちに筒抜けにしない為の緩衝スペースみたいなもんだ。とはいえ自販機はここにあるからオフィスからは自由に出入りするから内緒話が出来るわけではないんだけど。
こんな薄暗いとこで打合せもないし、怪しまれる前にここを出ないと。

オートロックの事務所に入るにはIDをかざす必要があって、履歴は全部残るから、事務所内のカードリーダーを退勤モードにして一旦出た事務所に入ったら休み明けに理由を追及される。

いや、忘れ物とか別に言い訳はできなくないけど、それにしたって長居はできない。
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