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第5章 井上 翔太
振られる辛さは身に染みて知ってる。

いや、振られたかどうかはまだ聞いてないけど、どちらにしろあれだけ泣くってことは、辛い経験だったってことだ。
ましてや30代女性、結婚とか意識してたかもだし。
それが終わったとなれば、ショックは相当なものだろう。

俺には、何もできない。

まぁ、何かする義理もないのかもしれないが、それでも。

小鳥遊さんには笑っていてほしかった。

だって、彼女は向日葵だから。

向日葵に涙は似合わない。

思い切り泣けば少しはスッキリするんじゃないか、なんて、短絡的かもしれないけど、まぁ俺の貧弱な想像力なんてこんなもんだ。

「1人で抱え込むの、辛いでしょう?話すと、スッキリしますよ。」

小鳥遊さんはビックリしたらしく、立ち尽くしていたが、そのくりくりした瞳が歪み、また大粒の涙がこぼれ落ちた。
困った。
ここでまた泣くか。

これじゃあまるで嫌がる女の子を無理矢理ホテルに連れ込もうとしてるみたいじゃないか。
職質とかかけられませんように…こっちが泣きたい。

ドキドキしながら周りを気にする俺に、小鳥遊さんはぐいっと涙を拭い、

「ありがと。じゃあ、そうさせてもらう。」

と、泣き笑いで答えた。

俺はとりあえず、ホテル前でまごつくカップルになりたくなくて、とにかくその場から離れたかったので、彼女の手を引き、建物に入った。
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