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うつむきピーターパン
第1章 誘惑

キャンパスに続く少し長い坂を登っていくとリュックサックと接する背中の部分に汗が滲んでいくのが感じられる。

昨日の出来事が生々しく良彦の頭の中で再生される。

美咲が一体どういうつもりなのか全くわからなかった。

もしかして自分のことを好いてくれているのか。

そうも考えたが昨日の彼女の様子はそれとは幾分違ったように思う。


キャンパスの中は新入生と上回生で賑わっていた。

自由におしゃれを楽しむことが許された女生徒は流行りのコーデを身にまとい少し遠慮がちに肩を揺らして歩いている。


授業がある大教室に入ると真っ白な照明が眩しかった。

「おっ。珍しいやつが来たでえ。」

サークルが一緒の鉄男はがっちりした体つきで色黒の肌から真っ白な歯をチラつかせながらそう言った。

「俺かて無事に卒業したいんや。」

大学生になると三人に一人は真面目に通わんくなると入学したばかりの時どこぞやの教授が言っていたことを思い出して、自分はその一人の方になってしまったとしみじみ思った。

「なあ、今日の小テストの答え見してくれよお。」

「なんとも都合のいいやつやなあ。」

「昼飯おごるからそれでええやないか。」


この調子で卒業して自分に何が残るんだろう。この大学生活の中で何かしら社会に出た時に武器になるようなものを、、とは何度も思ったが具体的なモチベーションもないまま2年になってしまった。

講義室の前の方では教授がせわしなく言葉を発しているが、半分ほどの学生はスマホをいじったり寝たりしている。

いやに明るい照明が眼前の多くの学生を溶かしているように感じられた。

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