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***堕散る(おちる)***
第33章 step33 二十七段目 B3階 犬になって
「今日は一段と暖かいな。散歩にでも行くか。」
独り言のように呟けば、ユキはそわそわして俺の足元を回る。
庭での色々な調教が、嫌な記憶があるはずだが、ユキは散歩が好きなようだ。
立ち上がってドアに行けば、しっかり後をついてくるユキとガラス扉を開けて庭に出た。
「本当に今日は暖かいな。花がどんどん開いて春になるぞ。」
ユキに季節を教えてやるがきょとんとしたままついてきた。
鋏を受け取り温室に向かう。ユキとの習慣となったこの行為は、今はもう、俺一人の日課となった。
温室に入り、ユキに今日はどれにするかを尋ねるが、ユキはもう指し示すこともなく、花や蝶と戯れて遊んでいるだけなのだ。
「もう全ての色を飾り終えたな。ユキが最初に選んだ黄色にしようか。」
ユキは名前を呼ばれてピクリと反応したが、言葉は通じず、まだ花と戯れていた。
温室を出て切った花を託すとそれは部屋に飾られる。
しかし、飾ろうと決めた本人は、出窓いっぱいに並んだチューリップには関心がない。
最初の頃はチューリップの数でここに来てからの日数を覚えている感があったが、今は静かに飾られたチューリップにすら興味がないようだ。