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***堕散る(おちる)***
第34章 step34 二十八段目 B4階 約束の日
「まずは俺の名前からだ。わかるか?」
ゥゥゥ…ワンワン…
「電話でも、朝、久しぶりに会った時にも呼んだだろう?」
俺が焦っちゃいけない。
ゆっくりと宥めるように優しく言う。
ゥゥゥ…はぅぅ…
「そうだ。ハルトだ。言ってごらん?」
はぅぅ…はぅと…
「よし、すごいぞルリ。」
俺はルリの頭を撫でる。
ルリが嬉しそうにした。
「これから、用がある時は俺の名前を呼んでくれ。いいか?」
ぅワン…
もう一度頭を撫でる。
「人を治すと書いて治人、それが俺の名前だ。
ルリのことも治してあげるよ。」
はぅと…
はからずも、最初にルリに名乗った時と同じことを言った。
ルリは一瞬ピクリと反応したが、俺を真似て名前を呼ぶだけだった。
治してやるルリ、元通りに…
俺は決意した。
本当は名がないこと、名前の記憶がないことを話したら、きっと混乱する。
騙すようだが、もう一度仮の名を名乗り、最初からやり直しだ。
「ハルト」
まるで言葉の通じない外国人に名乗るように、自分の鼻を指すゼスチャーを添えて、ゆっくりと言う。
はうと…
『る』は発音できないが、さっきよりしっかりと言えた。