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***堕散る(おちる)***
第37章 step37 三十一段目 地上階2F
「俺はね。ルリが失ってる期間のルリも好きだったけど、今のルリも好きなの。
過去の自分を造る必要はないんじゃないか?
ルリが失った記憶を取り戻したいのはわかる。でも焦っちゃいけないって、エミにも言われなかった?
大丈夫、過去のルリも、今のルリも、これから、どう変わるかわからないルリも、ルリだから…」
ルリは泣いていた。
そしてしゃくりあげながら、
「あり…が…とう…」
と言った。
俺は、自分で言葉にしておきながら、気づいてなかった。
ルリを大事だと想う気持ちを『好き』という感情なのだと…
だから、ルリが泣いてお礼を言ったのも、俺の告白に言ったのではなく、
記憶のない自分に感じていた不安が、少し和らいだからだと受け止めていた。
記憶のないルリと、心の壊れた俺の感情は、まだまだ生まれたてくらいに幼かったのだ。
ルリの涙を拭ってやり、俺は玉ねぎに取り掛かる。
用意してあったゴーグルをして、みじん切りにしていくと、ルリが笑っていた。
茶碗蒸しにはシラスを入れてかき混ぜ、三つ葉を浮かべた。
「あとはハンバーグを捏ねなきゃな。」
俺が肉を捏ねてルリが玉ねぎやパン粉、卵を入れた。