この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
***堕散る(おちる)***
第39章 step39 三十三段目 屋上へ
ルリは記憶を失っても去年と同じことを言う。
それでいいじゃないか…
期待しないほうがいい。
ここは山あいの私有地で一面に何十本もの桜が植えられている。
ネットの口コミで得た情報だった。
だからおおっぴらにキャンプは出来ないので、火を使うのはキャンプ場で済ませてやって来た。
ルリは俺の腕の中に収まり、桜の天井を見ていた。
「綺麗だ。」
「本当に綺麗ですね。」
「いや、桜じゃなくて…」
「え?
ハルト…ワタシたち、前にもこうして桜を見たことありますか?」
「思い出したか?」
「いえ、何となくそんな気がしたというだけで…
間違えましたか?」
やはりルリは『来年も桜を一緒に見よう。』と約束したことを覚えていなかった。
「ああ、間違えてないよ。去年、マンションの近くの公園にある一本の桜の木の下で、こうして夜桜を見たよ。」
「花見酒をするか…ルリは梅ジュースだけどね。冷えるからお湯割りにしたよ。」
ルリを起こして保温マグを渡す。
マグを合わせて乾杯した。
「ハルト、大事なことも忘れてしまってごめんなさい…」
「ルリ、気にしなくていいよ。焦っちゃいけない。」