この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
桜木母娘の奮闘記
第1章 敵
______
「木村君、今日はまだ時間がかかるかしら?」
「ああ、そうですね、まだ少しかかるかも…
用事でもあるんですか?」
「いいえ、のんびりお願いするわね」
首を少し傾げた。
お母さんは、知ってるんだ。
男に見せる仕草ってのを…
「天気が良くて、良かったわ」
「ほんとにそうですよっ、雨の日なんて最悪ですから」
どうでもいい会話が続く。
あたしはこういうところに口を挟むのが苦手だ。
大樹さんの前だと、普段見せないお母さんの姿がたくさん見られる。
正直、ウザい。
「さて、それじゃ続きでもしましょうか。
お茶、ごちそうさまです」
大樹さんは立ち上がると、頭に巻いていたタオルのズレを少し直した。
首を伝っていく汗が服の袖で軽く拭われる。
その五秒間、あたしは何も動けなかった。
「あんまり頑張らないでね」
「いえいえ、仕事なんですから」
お母さんの気遣いが撥ね除けられたみたい。
あたしの口元が、軽く緩む。
大樹さんは脚立に乗り、また木と向き合った。
こうなってしまえば、大樹さんはあたしのものでなくなると同時に、お母さんのものでもなくなる。
安心、出来る。