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あんなこんなエロ短編集
第30章 シラナイカオ

「もしもし?
未奈?母さんだけどー」
相変わらず語尾を伸ばす母だ。
数年振りに聞いたというのに、胸に湧いたのは懐かしさではなく嫌悪。
「…………何?」
「あのね、深刻にならずに聞いてね。
お父さんが倒れちゃったの」
「えっ」
思ってもみない出来事に、脳内が真っ白になる。
指先が冷たくなった。
「心筋梗塞らしいわ。
一昨日よ、お風呂入ってて出てこないから見に行った
のよ。そしたら倒れてたの。
バタバタ忙しくて連絡が今日になっちゃった」
母の他人事のような言い方に、
少しずつ冷静になってきた。
「命に別条は無いらしいの。
後遺症もないわ。
ただ、暫く入院が必要なのよ」
「……………そう………………」
「由剣(ゆづる)が殆どの世話はしてくれてるん
だけど………」
その名前を耳にした途端、めまいがした。
「でね、あんた何年も帰省してないんだし顔出しな
さいよ~。
親不孝すぎるわよ。
母さんも膝が痛くて、階段が辛い……………………」
頭がぼんやりし、思考が停止した。母の言葉が聞こえなくなっていく。
なのに感覚だけが蘇る。
『何故お前だけなんだよ』
目の前にある拳。
自分の頬に食い込むそれ。
倒れ込んだ畳の匂い。
白くてゴツゴツした、兄の指ーーーーーーーー
未奈?母さんだけどー」
相変わらず語尾を伸ばす母だ。
数年振りに聞いたというのに、胸に湧いたのは懐かしさではなく嫌悪。
「…………何?」
「あのね、深刻にならずに聞いてね。
お父さんが倒れちゃったの」
「えっ」
思ってもみない出来事に、脳内が真っ白になる。
指先が冷たくなった。
「心筋梗塞らしいわ。
一昨日よ、お風呂入ってて出てこないから見に行った
のよ。そしたら倒れてたの。
バタバタ忙しくて連絡が今日になっちゃった」
母の他人事のような言い方に、
少しずつ冷静になってきた。
「命に別条は無いらしいの。
後遺症もないわ。
ただ、暫く入院が必要なのよ」
「……………そう………………」
「由剣(ゆづる)が殆どの世話はしてくれてるん
だけど………」
その名前を耳にした途端、めまいがした。
「でね、あんた何年も帰省してないんだし顔出しな
さいよ~。
親不孝すぎるわよ。
母さんも膝が痛くて、階段が辛い……………………」
頭がぼんやりし、思考が停止した。母の言葉が聞こえなくなっていく。
なのに感覚だけが蘇る。
『何故お前だけなんだよ』
目の前にある拳。
自分の頬に食い込むそれ。
倒れ込んだ畳の匂い。
白くてゴツゴツした、兄の指ーーーーーーーー

