- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
愛はいっぱい溢れてる
第2章 幸せのあしあと
人間にも稀にあるんだろう………
最高に嫌われた時点から好かれていく大逆転というやつが。
でも、それって奇跡じゃね?
話しか知らないムック。
今も仏壇の横に写真が飾られている。
お祭りの法被を着て、『大事なペットだったんでござんす』と言いたげな可愛いドヤ顔。
隆雄さんはムックが可愛くて朝は必ず散歩に連れて行く。
でも、ムックを抱っこしての散歩なんで、散歩とは言えない。
近所の人からも、「ムックちゃんの散歩になってないよ!」と突っ込まれる。
ご飯の時は、隆雄さんの隣に座るムック。
好きなおかずをおねだりし、隆雄さんの顔をムックが覗くと、隆雄さん、自分の箸でムックに食べさせる。
『マジか?親父!』
雅人の心の声。
「さすがに自分の箸でムックに食べさせてやった時はビビった」と雅人の後日談。
家でマーキングした時の消臭に、値段の高い柑橘系のスプレーを撒いた。
みかんが好きなムックには効き目なんてない。
お祭りの日に隆雄さんとムックが出掛けると、近所の人の太腿に噛みついて痕が後ほどまで消えなかったという事件もあった。
今なら大変だ。
治療費、慰謝料ふんだくられても文句は言えないと語り継がれるムックの気性の荒さ。
いや、近所の人=ムックに噛まれても訴えなかった人がおおらかなのかもしれない。