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お兄ちゃんといっしょ
第9章 第9章
 魚の塩焼きは、塩加減が絶妙だった。
 絶妙に、塩が口の中の傷に染みた。

 食べるのが遅い上に骨取りが下手な私を見かねて、お兄ちゃんが「かしな」と、私の皿を引ったくった。

 箸だけで器用に小骨を取り除いていく。
 ゆうべ私をぶった手のひらが、今は優しい。


「あれ?太一じゃん」

 
 突然奥から若い女性の声が聴こえた。
 顔を上げると、店の奥から黒髪の若い女性が出てきたところだった。


「やばいやばいやばい。太一なんでここにいんのー」


 肌が日に焼けて黒く、けれど、やんちゃな感じの黒さじゃなくて、健康的な黒さの、元気いっぱいといった印象の女性だった。



「ちょーひさしぶりじゃん。翔太にきいたよー。社長ボコッて会社辞めたんでしょ?元気だった?今なにしてんの?」


 丸くて大きな瞳を輝かせながら、女性は嬉しそうに近付いてくる。

 お兄ちゃんは振り返り、女性の姿を見るや、挨拶もないまま「愛ちゃん太った?」といきなり真顔で尋ねた。


 お兄ちゃんのそばまで近付いてきた女性は笑いながらお兄ちゃんの背中を叩き、「三人目なの!」と、エプロンの下でふっくら膨らんでいるお腹を撫でて見せた。


「あれ?ダンナもう出てきたの?よかったじゃん」
「いやいや。まだ○○刑務所でがんばってらっしゃいますぁ」


 女性は化粧っ気ない、けれどもきちんと整った顔で、開けっぴろげに笑っていた。


 お兄ちゃんは八重歯を見せて楽しそうに笑いながら「このヤリマン!」と言ってまた背中を叩かれていた。

 
「てかこの子は?まえに言ってた、妹?」


 女性はサバサバした性格なのか、あっけらかんとした言い方で私の方を見た。


 お兄ちゃんは笑ったまま「ううん、三人目なの」と答えた。


 女性は笑いながら「ブッ飛ばしたろか」と言い、実際、やっぱりお兄ちゃんの背中を叩いてから、サッサと店の奥に引っ込んでしまった。

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