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お兄ちゃんといっしょ
第9章 第9章
「あは、腹痛い。
 お前やっぱ、処女のうちにばあちゃんちに帰りな。
 兄ちゃんといたって、ろくな人間になれないよ」


 赤信号。
 笑いすぎて汗かいたわ、と言って、お兄ちゃんがシャツの袖を捲くった。


「…ろくな人間になれなくたっていい。おばあちゃんちに帰るくらいなら」


 私は正直にそう言った。
 袖口から、入れ墨がすこしだけ覗いて見える。
 目には見えないけれど、お兄ちゃんの身体からは熱気が立ち込めているみたいだった。


「ふーん…」


 いつの間にか、お兄ちゃんの顔からは笑顔が消えていた。


「あのさぁ、奈々」


 ゆうべ私をぶった人は、あの時と同一人物と思えないほど穏やかな口調で私に言った。


「なんてゆーのかね。
 小6の脳じゃわかんないかも知れないけど、人には向き不向きってのがあってさ。
 会社員すんのが向いてる人もいれば、ヤクザすんのが向いてる人もいる。
 風俗で毎日知らない男の相手すんのが天職の人もいれば、乳児院で恵まれない赤ん坊の世話すんのが天職の人もいる」 


 その熱気を感じるたび、私の心はまるで致死量には至らない猛毒にじわじわと侵食されているような感覚に陥る。
 皮膚がざわざわ騒ぎ出す。
 きのうぶたれた頬が、熱い。

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