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お兄ちゃんといっしょ
第10章 第10章
 近くにいたさっきの中年女性は、この世の物とは思えないほどおぞましい物を見てしまった、といった表情で、お兄ちゃんのほうを睨み付けていた。


 一方お兄ちゃんは、一瞬呆れた顔をしたけれど、すぐに、


「ガマン汁ぐっしょりだわ!」


 と、大きな声でしれっと私に答えた。




 レジの前でお兄ちゃんが財布を取り出した。
 黒いレザーの平紐を細かく編んである、変わったデザインのヤツだった。



「…買ったの?」



 精算を終え、下着の入ったビニール袋片手に、財布をズボンのポケットに仕舞いながら、お兄ちゃんは「当たり前だろ」と、不思議な顔をする私に答えた。


 時刻は、10時45分。


 二人で車に乗り込む。
 エンジンをかけながらお兄ちゃんは「妹のハレの日だぜ?可愛い格好さしてやりたいじゃん」と笑った。


 発進。
 

 ショッピングモールから待ち合わせの駅は目と鼻の先だ。
 車はどんどん、待ち合わせ場所に近づいて行く。
 このあとのことを考えてため息をついた私に、お兄ちゃんが言った。



「だからダサいなんて思わず、これをお召しあそばせ」


 と。
 そして、どこからともなく。
 まるで魔法のように、あちこちから少女趣味なワンピースを数着取り出して見せた。


「え!?すごい!」


 驚く私に、えっへん。って威張りながら、お兄ちゃんはボン!とそれらを私の膝の上に置いた。


 新品の匂いがする値札の付いた服は、先ほど売り場で見たときはガラクタのようだったのに、薄暗い車内では、きらきら輝く宝石のように見えた。





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