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お兄ちゃんといっしょ
第29章 巻き戻し
 ゆうべ、おばあちゃんちに帰ったのは21時過ぎだった。
 タイセイは心配そうな顔で、自分の後頭部を撫でている。



「あぁ…全然。前みたいに家出しないで、ちゃんと帰ってくるだけマシだって」



 タイセイは目を糸みたいに細めて笑ってる。
 ほっぺたがもっちり赤くて、アンパンマンみたいだ。



「なら良かった」



 タイセイがひと目もはばからず、手を繋いでくる。
 汗で湿ったムチムチの手だ。
 強く握り返して、分厚いふわふわ肉厚の肩にもたれ掛かる。




「次の休みに、おばあちゃんが家においでだって」



「ええっ?」



「だって、私はタイセイんち何回もお邪魔してんじゃん?いつもおばさんがおばあちゃんに挨拶の電話くれるし。おばあちゃんも、タイセイを正式にお招きしたいってさ」


「正式に?」



 タイセイがまた、後頭部をいじりだす。




「奈々の初めての彼氏だから、ちゃんと会いたいって」




 タイセイは恥ずかしそうに口をへの字に歪め、窓の外を見ている。
 つぶらな一重瞼で、薄茶色の瞳に流れていく景色が写ってる。




「…昨日のこと、おはあちゃんに言ったの?」



 タイセイが小さい声で私に尋ねた。
 脳裏に昨日の出来事が蘇る。
 柔らかい唇。
 皮をかぶった硬いモノ。 
 太った身体、たくさんの火傷あと、たくさんの切り傷、たくさんの古い痣。
 股間にまだ残る違和感。



「言うわけないよ。タイセイと私だけの秘密だから」



 私の言葉に、タイセイは安心したみたいで、ニコッと笑った。
 歯列矯正のワイヤーが目立つ。



「タイセイはお母さんに言った?」


「まさか」


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