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お兄ちゃんといっしょ
第29章 巻き戻し
 ―――あの日。
 玄関の前でしゃがんでいた私を見つけたとき、おばあちゃんは。
 ワッと泣き出して、泣きながら私を抱きしめてくれた。

 あれから半年。
 お兄ちゃんのところで過ごした日々はまるで、悪い夢でも見ていたかのような…。
 あれは本当にあったことなのだろうかと、時々不思議に思う。



「おはよー」

「タイちゃん、奈々、おはよー」


 朝10時。
 部屋に入ると、先生が笑顔で出迎えてくれた。
 手前にテーブルと椅子、ソファに本棚。
 奥にホワイトボードのある小さい講義室がある。
 BGMは、元バンギャの先生が昔好きだった『ガゼット』ってバンドの曲らしい。


 室内にはまだ誰もいない。
 また私達が一番乗りだ。


 タイセイはロッカーにリュックをブチ込むと、本棚から漫画を取り出して、ソファに転がって読み始めた。
 こうしないとタイセイはエンジンがかからないんだそうだ。


 私はテーブルに座り、先生に「わかんないとこあったから教えて」と、簡素に伝えた。
 先生が笑う。歯茎の目立つ笑顔。

「すごい、やる気まんまんじゃん」

 先生の言葉に肩をすくめて見せ、リュックからドリルを取り出した。
 
「まぁね。ちゃんと勉強して更生しないとね〜」

 他人事のように呟く私を、タイセイがふふっと笑った。




 街中にある、ごく普通の雑居ビルの一室。
 俗に言うフリースクールってやつに、今私は通わせてもらってる。
 あの日、おばあちゃんちに帰った日…。
 おばあちゃんは私に言った。




「嫌なら学校にも塾にも行かなくていい。
 だからもう二度と、龍司には関わらないで欲しい。
 だってあの子は…」




 パパの借金がチャラになったと聞かされたのは…
 いや、盗み聞きしたのは、ママがおばあちゃんに会いに来た時だった。
 お兄ちゃんがお金を持ってきたらしい。



 ママは苦々しい表情をして言ってた。



「利息だけはこっちで払えだって。
 一体なんの借金だったんだか。
 あの人、龍司に脅されて借金させられてたんじゃないかしら。
 利息の返済だけで月々2万円よ。嫌になるわ…
 私、本当にあの子を産んだ母親なのか、自分でも分からなくなるのよ。   
 一緒に暮らしたことがないって言ったって…一度だってあの子が考えていることを理解できたことがないわ」


 
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