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お兄ちゃんといっしょ
第29章 巻き戻し
 質問が唐突だな、と思った。
 物足りないエッチのあとだからか、いつになくデリカシーのないタイセイの態度に苛立ちを覚えた。


「え?なんで?」


 なるべく明るく笑顔で聞き返す。
 昨日とはまるで違う、幸福感の乏しい事後に虚しさを覚えた。タイセイが言う。


「“好きじゃない”とは言わないんだね」


 こんなタイセイの顔を見たのは初めてだ、と思った。
 タイセイは…どうやら実態のない気配に嫉妬しているみたいだ。
 私の中の男たちに眼差しを向け、赤ちゃんみたいな無垢な赤い顔をしたタイセイの瞳は私を疑っている。
 虚しさが心を蝕んでいくのが分かった。
 さっきまでタイセイを好きでいた自分は幻だったのかな?…そう思ってしまうくらい、心が冷たくなっていく。


「…本当のことを言ったら、タイセイはわたしのことを嫌いになるよ」


 私は膝を抱えて、お互いにお互いの身体でイケなかったことに今更苛立ちを感じながら薄ら笑いをタイセイに向けた。
 

「知らないほうがいいことのほうが、世の中多いんじゃないかな?」


 タイセイは唇を噛んで私を見ていた。


「…そんな眼で見ないでよ!」


 わめきちらして、タイセイに向かって理不尽に枕を投げつける自分が遠くに感じる。
 タイセイはただ黙ってやられてる。
 言い返すわけでもやり返すわけでもないタイセイが悲しかった。タイセイに対してじゃない。
 一人でわーわー騒いでる自分がバカみたいだったから。


「エッチ好きかなんてなんでわざわざ聞くわけ?!
 そんなに私が汚いと思ってんの?!」


 叫んでる内容がめちゃくちゃだ。頭では分かってるのに、抑えきれない。


 こんな気持ちと、半年間、闘ってきた。


 なんでだろう。
 タイセイが放った一言で、私の中の何かが溢れ出してしまった。


 タイセイとエッチなんてしなければ良かったと一瞬思ったけど、きっと、しなかったらしなかったでうまく行かなかったのかな、とも思う。


 さっきまでのキラキラした胸のぬくもりはなんだったんだろう。
 冷めてしまったらキラキラした宝物がガラクタに見える。


 誠太郎に会う前、お兄ちゃんが“くれた”ガラクタのような洋服は、あんなにキラキラして今でも私の心を締め付けているというのに。



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