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お兄ちゃんといっしょ
第5章 第5章
 午前6時にセットしたスマホのアラームが鳴る頃には、空は白み始めていた。
 おばあちゃんはまだ寝ているのか、連絡はなかった。
 着信拒否を設定してから、私は市場に向かって歩き出した。


 お兄ちゃんの言ったとおり、日曜日の市場は暇なのか、ほとんどの店が閉店してしまったあとのようで、ずいぶん閑散としていた。


 しかし、魚の生臭いにおいがあたり一面に充満し、どこもかしこも薄暗い。
 人気の消えた店舗の床はどこも濡れていて、どこの店舗も薄汚れたゴム長と腰掛けが雑に壁際に引っ掛け並べられていた。


 時々、ゴム製のエプロンをしめたオッサンや、作業着姿のオッサン、仕入れ帰りの客と思われるオッサンとすれ違った。


 当然といえば当然だが、どのオッサンも、あからさまに私のことを凝視した。
 そのたびに私は、絶対に目を合わせないようにしながら、足早に通り過ぎるよう努めた。

 入ってすぐだと言ったわりに、お兄ちゃんの店はなかなか見つからなかった。
 ポケットから名刺を出し、一店舗ずつ看板を見上げて回る。

 そうしていると、先程すれ違ったオッサンの一人が台車を押してこちらに引き返してくるところに遭遇した。
 オッサンはこの世のものとは思えないくらいしゃがれた声で、

「おいジョウちゃん、さっきからこんなとこで、なにしてんだ」

 と険しい顔で話しかけて来た。
 オッサンの頭にはマンガみたいなねじり鉢巻が巻かれていた。


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