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優しいヒトに虐められてます。
第13章 雨と美術館
少しして古田に合流する。

彼が見ていたのは、椅子に横向きに座り
背もたれに腕をひっかけて眠っているらしい
若い女性の絵だった。

黒い髪に目を吸い寄せられた。
今にもはらりと、ひとふさ落ちそうな――。
全体的に質感のある、写実的な絵だった。

ハルにわかるのはせいぜいその程度だったが
もう一つだけ、心惹かれる要素があった。
それは――。

「ねえ、斎藤さん。この絵、どう思う?」
「うん……なんか、不思議だけど、題名の通りな気がする」

題名、『卑猥な女』。
解説欄には、作者が片手で自慰をしながらもう片方の手で
描いたと言われる、渾身のエロティシズム作品であると
書かれている。
解釈の仕方には一切触れられていない。

公共の場に『自慰』などという単語を出すあたりも
美術界の表現の自由さを
いい意味で示されている気がした。

規制の厳しい昨今の風潮に屈しない
独自の感性が保たれていることが
絵画という世界の魅力を顕示しているようでもあった。
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