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Quattro stagioni
第10章 スタンダールの幸福 Ⅴ

売店でなにか買おうかと思ったが、23時以降は近くのコンビニを利用するしかないようだった。少し、出遅れた。ふらふらとホテルを出るとなぜだか昼間は全く感じなかった潮の匂いを感じた。

なにかに引き寄せられるように海の方へと歩いていく。砂浜へと続く階段に差し掛かると、海の方を向いて座っている人影に気付いた。生温い風が吹き、そいつの柔らかな髪を浚う。声を、かけるべきか。迷っている内にそいつはゆっくりとこちらを振り向いた。

「飲む?」

ふわりと笑って、汗をかいたビールの缶を掲げる。長いこと座っていたのだろうか。答えに困って、おう、とだけ言って缶を受け取った。やはり、少しぬるくなっているようだ。

「………」

立ったままで居るのもおかしいだろうと思って、やや距離を取って隣に座った。ぷし、と缶を開ける音。

「藤なら部屋で寝てるぞ」
「だろうね」
「分かってんならこんなとこでなにしてんだ」
「浩志が来るかなって思って」
「……」
「ねえ…私に、言いたいこと、ない?」

漸く俺もプルトップを引き、一口、二口、ぬるいビールを飲んだ。それを待っていたかのように都筑は俺の方を向いて言った。言いたいことならいつだってたくさんあった。だが、臆病になった俺はそれらを飲み込むばかりだった。

「お前は、」
「うん?」
「お前は、ひでー女だ。料理もできねえ、可愛げもねえ」
「はは、それから?」
「酒癖もわりー、出不精で、他人の気持ちに鈍感で、冷たい奴だ」
「……うん」
「でも、俺は…酔って口きたねー愚痴言うお前も、アイスひとつでにこにこしてるお前も、自分守ろうとして必死に生きてるお前も……全部、好きだった」
「うん、」
「お前のこと、好きだったよ」
「知ってるよ」
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