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Quattro stagioni
第10章 スタンダールの幸福 Ⅴ
俺も、一応は男だ。普段とは違う水着姿にどきりとせずにはいられない。すらりと背の高い都筑もとにかく目立ったがその数歩後ろを気恥ずかしそうに歩いている森美月に視線が吸い寄せられる。花柄の水着を纏った小さな身体。アンバランスに豊かな胸元を見てしまったのは不可抗力だ。
「中原さん!美月ちゃんの水着、どうですか?」
「…は?」
「かわいい、とかなんとかないんですか?」
もじもじしている森の手を引いて津田がこちらまで駆けてくる。心なしかにやにやと笑っているように見えた。じっくり見回す訳にもいかず、砂浜に視線を逃がしながら、よく似合ってる、とだけ言った。
「お前の水着はなにも感じないわ」
「うーわ、藤うざい。砂浜に埋めてやる!」
言いながら藤の視線は津田ではなく、都筑を捉えている。恐らく、都筑になにか言いたいのだろう。だが、俺と新人2人がいる手前、どう出るか考えているようである。ふと視線を感じて顔を上げると森が会社に居るときのような泣き出しそうな顔をして俺を見ていた。
「どうした?俺はいいから遊んでこいよ」
泣きたいくらい嫌ならば断われば良かっただろう、と思う。完全に遊ぶモードに入った津田と清水はいつの間に調達したのかビーチボールを抱えている。早く行って来い、と促すと曖昧に頷いて背を向けた。
津田が満足するまで海で遊んだ後、一度ホテルに戻ることになった。少しばかり休憩を取って、遅めの夕食までの間は6人で周辺を散策。この時間も中々に地獄絵図だった。夕食時は森と都筑以外、アルコールが入った甲斐あって比較的和やかと言えば和やかな席となった。
俺にとって最大の地獄は男女別、3名ずつの振り分けになる部屋に戻ってからだろうと思っていたが、広々とした部屋はきちんとベッドが3台あり、壁際に俺、真ん中に清水、それから藤でとりあえず落ち着いた。
大浴場に連れ立っていった藤と清水は戻ってくるなり部屋で飲み直し始め、23時を少し過ぎた頃にはそれぞれベッドで眠り始めた。なんとか地獄を見ずに済んでほっとしたものの眠る気にもなれず、静かに部屋を抜け出す。