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Quattro stagioni
第11章 スタンダールの幸福 Ⅵ

「あいつはね、まだ、悪い夢の中に居るの。多分、色んな気持ちでがんじがらめになってたんじゃないかな」
「悪い夢、ですか…」
「そう。楽しい時間が長かったから夢の中にとじこもっちゃったんだろうね。でも、そろそろ覚めた筈だよ。最近の浩志、ちょっと気が楽になったみたいな顔してるもん」

わたしも、そんな風に感じた。なんとなく、すっきりしたような顔。都筑さんにも分かっていたようだ。ミヤコさんはぴんとこなかったみたいだけれど、そこからせっかくの機会だから中原さんにアピールしようとはしゃぎだした。恥ずかしいから水着の上に薄手のパーカーを着ようと思っていたのに、まず、それを奪われた。

更衣室を出てから中原さんと藤さんが居るであろうところに向かうまでの間、何度もナンパされそうになったけれど清水くんが上手く合流してくれたので助かった。熱い砂の上を歩きながら、珍しくにやけた都筑さんがわたしの胸元に触れようとしたのはミヤコさんが制す。

色々あって、波打ち際でビーチバレーをする間、中原さんはずっとパラソルの下だった。途中、よろけた都筑さんを清水くんが支える形になったとき、辺りの温度は急降下。藤さんが着ていたTシャツを脱いで、暑いから嫌だと渋る都筑さんに無理やり着させる様はなんだか微笑ましかった。

「森さ、都筑さんと藤さんが付き合ってんの知ってた?」
「うん、さっき聞いた」

遊び疲れてホテルへ戻る道すがら清水くんに聞かれたけれど、本当は聞く前にふたりがデートをしているところを見てしまったことは言わないでおいた。

「都筑さんって俺に気があると思ってたんだけど…まじかー」
「え、どこでどう勘違いしたらそうなるの?」

確かに都筑さんと藤さんが付き合っているなんて、言われなければ気付かないだろう。そうだとしても、都筑さんが完全に清水くんを後輩以上に思っていないことは火を見るよりも明らかだったのに、彼は何故そんな勘違いをするに至ったのだろう。
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