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Quattro stagioni
第11章 スタンダールの幸福 Ⅵ
「な、中原さん」
「ん?」
「あの…き、昨日のことなんですけど…」
「ああ、」
「わたし、本気です。冗談なんかじゃないです」
「分かってる。昨日、ホテルに戻ったときのお前の顔見て、本気だって分かった。だから、俺もちゃんと考える」
独り言のように彼の背中にぶつけていた声。いつ間にか俯いていた顔をゆるりとあげると、中原さんはわたしを振り返って、優しい顔でわたしを見ていた。どきりとする。厳しそうな印象を受ける目元が、笑みによってきゅっと細くなった様はどうしようもなくセクシーだ。
「ほら、行くぞ。お前、あれだろ、なんかトリックアートっつーの?観に行きたいんだろ」
恐らくミヤコさんが適当なことを言ったのだろう。でも、なんだって良かった。はい、と答えて隣に並ぶ。肩の位置が全然違った。今度はわたしに歩幅を合わせてくれる。言葉は上手く出て来なくて、楽しいお喋りにはならなかったけれど、胸がじんわりと幸福な熱に満たされていた。
トリックアートの博物館を観て回って、それから地元の名産品を少し食べ歩いて、15時過ぎには帰りの新幹線に乗った。こうなる前は渋ったくせに、もう少しだけ一緒に居たいな、なんて思ってしまう。
2人がけのシートに並んで座って暫くすると、中原さんはまるで緊張の糸が解けたように寝入ってしまった。そっと覗き込んだ寝顔は、前に彼の自宅で見たときは違い、とても安堵の色を感じるものだった。