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Quattro stagioni
第11章 スタンダールの幸福 Ⅵ
◇◆
恋なんて、うっかりしてしまうものだ。そしてひとたび、その気持ちに気が付けば、想いはどんどん膨らんでいくものだと思っている。わたしの今までの恋は全部そうだった。でも、自分から告白した上で、返事も待たずにキスをしてしまったのは初めてだ。
1泊2日の視察旅行を終えて、その翌日からは通常勤務だった。どうやら都筑さんと中原さんは、彼女がベッドを抜け出していたときになにか話をしたようで、ふたりの間の物悲しい空気は幾らか和らいでいるように感じた。
羨ましいな、と思うと同時にやっぱり言葉少ない会話で意思の疎通の取れているふたりの方が良いなと思う。
月曜から金曜までの5日間。中原さんはこれといってなにを言うでもなかったけれど、彼は元々仕事中はあまり余計なお喋りをしない人だった。わたし達は同じ期間に夏季休暇を取得する。きっとその夏休み中に1度くらいはお誘いがあるんじゃないかと思っていたけれど、昨日の帰りがけにはいつも通り、気を付けて帰れよ、と言われただけだった。
日が代わり、夏休み初日の土曜。そういうわけでわたしはベッドの上でスマホ片手にいじけていたりする。これは、わたしが誘わなければ休暇中一度も彼に会えないということなのだろうか。
休暇の終わりの土曜には花火大会がある。あわよくば、誘ってくれやしないだろうかと期待していたというのに、まさかいつも通り送り出されるとは思いもしなかった。
しゅんと息をつくと握りしめていたスマホの画面が光った。中原さんだ!決めつけて見つめた画面。表示されていたのは有希の名前。だよね、と肩を落としながら応答ボタンを押す。
『もしもーし?ね、美月、今日暇?』
「今日っていうか、来週の日曜までずっと暇」
『え?会社は?』
「夏休み」
『実家帰んないの?』
「うん。だって、電車で2時間でいつでも帰れるし」
『休みの日程早めに教えてくれたら私も合わせられたのに!言ってよ』
「ごめんごめん、なんか毎日でいっぱいいっぱいで…もうこの際引きこもってのんびりする」
『ちょー勿体ない!とりあえず、今日は出てきてよ。カラオケいこ!』
有希の誘いに乗ることにして、とりあえず1時間30分後に待ち合わせになった。そうだ、有希には中原さんのことを聞いて欲しい。簡単に身支度を整えて、家を出る間際、彼は今日、なにをしているかなとふと思った。