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Quattro stagioni
第11章 スタンダールの幸福 Ⅵ
合流してからは迷わずカラオケボックスに向かった。流行の曲や懐かしい曲を交代しながら歌って、そろそろネタ切れだー、なんて有希が言い出した頃にジンジャーエールを飲みながらわたしは先週末の旅行の話をした。
「え!美月が!?自分からキスしたの!?」
「…うん…した」
「で?どうなったの?」
「……なんか、どうにも…なって、ない」
「なんで?返事聞いてないの?」
「か、考えるって言ってた、けど」
ぶくぶくとグラスの中のジンジャーエールが泡立つ。行儀が悪い、と有希は眉を顰めた。ごめん、と返してグラスをテーブルに置く。そこに放り出してあったスマホはうんともすんとも言わず、静寂を保ったままだ。
「美月から攻めたんだから、遊びも花火も美月が誘いなよ」
「…う…で、でもさ、」
「でも、なに?ここでもじもじしたって保留のまま気づいたらその人他の誰かと付き合っちゃうかもしんないよ。そうなってもいいの?」
「それはやだ…」
そんなこと、考えただけで泣きそうになる。ああ、やっぱり、いつの間にかわたしは中原さんのことがとても好きになっていたみたいだ。
「てかさ、もういっそさ、押し倒しちゃいなよ。いくら据え膳食わない系だって言っても流石に押し倒せば男みせるでしょ。既成事実?作っちゃいなって」
「な、中原さんはそういう人じゃないよ」
「そういう人じゃないからこそ、だよ。やることやっちゃえば付き合わざるを得なくない?」
「わたしはそういうのずるいと思う」
傷心につけ込むようなこのタイミングだって充分ずるいと思っているのに、有希が言うような真似なんて出来ない。それにわたしは有希ほど肉食系女子ではない。狙った獲物は逃がさないと豪語する彼女は時に手段を選ばない。けれど、誰かを傷つけるような恋はしない子だ。だから、やや強引さを感じることもあれど、わたしは有希のことが凄く好きだ。