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Quattro stagioni
第11章 スタンダールの幸福 Ⅵ
色々と話をして、それからもう少し歌って、夜には小さな洋食屋さんで夕食を取り、有希とは別れた。有希は何度も自分から連絡を取るべきだと言った。
だけど、結局、わたしは休暇を気まぐれに実家に帰ってみたり、シフト制で中々休みが合わない爽子やエリカと遊んでみたりとだらだらと過ごしてしまった。
有希と会ってから1週間が経つ。ちらほらと強い雨の日があり、天気が安定せず開催が危ぶまれていた花火大会は無事、決行されることになったと朝のニュースでやっていた。花火でも、なんでもいい、ほんの一瞬だけでも中原さんに会いたい。
彼は、わたしのことをどう思っているだろう。都筑さんとの間にあったわだかまりは解けたようだけれど、まだ、彼女のことを想っているのだろうか。
恋愛は勝ち負けではない。頭で分かっていても、中原さんのことを想うとつい、自分と都筑さんを比べてしまう。
「都筑さんには敵わないなぁ…」
ぽつりと、呟く。海水浴客で溢れかえる砂浜の光景が瞼の裏に甦った。すらりと伸びた四肢。纏め上げた柔らかそうな髪。凛とした表情。あの海でも、ホテルでも、彼女の瞳は藤さんを見ていた。言葉などいらない。説明などしなくたって、あの人の横顔には十分すぎるくらい藤さんへの愛情の色があった。今になって思えば、もっと早く気付くことが出来たような気がする。
そんな横顔を、中原さんはずっと見ていたのだ。どれだけ苦しかっただろう。わたしが彼の表情から察した以上に苦い思いをしていたに違いない。
中原さんの声が聞きたくなった。どれだけ待ったってきっと彼からの連絡はないに決まっている。それならば、いっそ、自分から連絡を取るしかない。ごくりと喉を鳴らし、ベッドに放り出してあったスマホを手繰り寄せる。その刹那、お気に入りの着信メロディが軽やかに鳴った。
「は、はい!もしもし?」
名前を確認する時間も惜しかった。慌てて応答ボタンを押すなり、機体を耳へと持っていく。