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Quattro stagioni
第11章 スタンダールの幸福 Ⅵ

『あ、森?俺だけど』
「……なんだ、清水くんか」

ちっ。確認すれば良かった。彼に罪はないけれど、はぁと息を吐いてベッドに寝転がる。そうだよ。分かっていたじゃないか。中原さんから連絡なんてある筈ない。

『なんだってなんだよ。な、今日さ、大川に花火誘われたんだけど男二人で行ってもあれだし、お前も来ない?』

大川くんは営業に配属されたわたし達の同期だ。配属以降は時々社内で顔を合わせる程度で殆ど話もしなかったけれど、清水くんは彼と親しくしていたらしい。

正直、少し、揺れる。花火は観に行きたい。けど、心のどこかで中原さんと、と期待する自分が居る。求めすぎていることは分かっている。彼はちゃんと考えると言ってくれた。彼なりのペースがあるのだろうとも思う。有希の言う通り、わたしから動かなければこのまま有耶無耶になってしまう予感もしている。

頭の中がごちゃごちゃだった。むむ、と黙り込むと、なあ、どうする?と急かす声。既に外に居るのかざわめきが混じっている。

「…ごめん、ちょっと用が入るかもしれないから。誘ってくれてありがと」
『えーまじかよ。まぁ、いいや。大川には言っとく』
「うん。大川くんによろしくね」

ほいほい、と軽い調子で言って清水くんの方から電話を切った。寝転がったままスマホを放り出す。あと、10分。そうしたらわたしから連絡をしよう。もしかしたらなにか用事があるかもしれないし、実家に帰っていたりするかもしれない。断られたっていい。一瞬でも声が聞ければ、それで。

目を瞑って、呼吸を整える。妙にどきどきしていた。待て待て、電話をかけようと決めただけなのに。深く、息を吸う。それから、ゆっくりと吐き出す。何度かそれを繰り返していると再び電話が鳴った。

「もしもし?清水くん?なに?」

断ったのにしつこいなぁ、とかそんな気持ち交じりだった。緩慢に腕を伸ばして画面もろくに確認せず着信に応じる。
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