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Quattro stagioni
第11章 スタンダールの幸福 Ⅵ

でも、そうなったって良いかもしれない。胸を占める淡い欲情を追い出そうと思いつつも、一応シャワーを浴び直してからワンピースに着替える。

念入りに、でも濃すぎないようにメイクをして、髪は簡単なシニヨンにする。貝殻モチーフのバレッタをつけてから、鏡に向かってにこりとしてみる。少しは普段と違って見えるかな。少しでも可愛いと思ってくれるかな。どきどきは一向に収まる気配がない。

ショルダーバックに最低限の荷物を詰め込んで、爽子と会った日に買ったばかりの可愛いサンダルを履いて家を飛び出した。

最寄駅までの道のりも、乗り慣れた電車の中の光景もいつもよりうんときらきらして見える。わたしが約束の駅に着いたのは17時30分だった。早く着きすぎてしまった。駅の近くのカフェにでも入ろうかと思ったけれど、同じことを考えている人が多いのかどの店も混み合っている。

仕方なく、改札の傍で中原さんを待つことにした。夜が近づき、気温が下がっているのも幸いして外気の暑さはさほど感じなかったけれど、なんだか落ち着かなくて、顔が熱くて仕方がなかった。

ワンピースの胸元をぎゅっと握りしめる。深呼吸。どきどきするな。あんまり期待するな。中原さんがどんな意図で誘ってくれたのかは分からない。

そわそわしたまま、次々と待ち合わせの人と合流していく人たちを見つめる。友達同士だったり、恋人だったり。可愛い浴衣姿の女性を見ると、やっぱりわたしも、と思わなくもなかった。

中原さんが姿を見せたのはわたしが駅に着いてから10分くらい経った頃だった。やや驚いたような顔で、随分早く来たんだな、とそう言った。中原さんこそ、とわたしが返せば、待たせるのは主義じゃないのだと言う。
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