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Quattro stagioni
第11章 スタンダールの幸福 Ⅵ

全ての打ち上げが終われば、人々は一斉に帰路につく。ぎゅうぎゅうと人の波に押される中、彼はずっとわたしがはぐれないように気にかけてくれた。
人波はゆっくりと、進んでいく。ちょっと進んで、立ち止まって。スムーズに駅まで戻ることは難しそうだった。こういう混雑は気が滅入ることが多かったけれど、中原さんと手を繋いでいるからか、いつまでも続いたってわたしは浮かれていられそうだった。
「…あっ」
先を急ぐ男性が強引に人を掻き分け、前に出ていったのに押されて少しつんのめった。その勢いで変に力がかかったのか買ったばかりのサンダルのストラップ部分がぶつりと切れた。
かくんと崩れそうになったわたしの腕を引きながら中原さんがさっとわたしの足元に目をやった。それから辺りに視線を巡らせ、人混みから抜け出せるように導いてくれる。
「あーあ、派手に切れて…」
困ったような溜息。わたしも似たような息を吐く。しゅんとしょげるわたしの頭をわしゃわしゃ撫でて、彼はきょろきょろと辺りを見回した。
「確か上手く抜ければ大通りに出られた筈だけど…そしたらタクシーでも拾って…」
取り出したスマホで周辺の地図を確認しているようだった。伸びをして画面を覗き込むとやはり近隣の地図が表示されている。わたしの顔を見て、それからまた足元を見て、渋い顔。なんだろう。首を傾げると、彼は深く息を吐く。
「…あんま、歩かせられそうにないな」
「…!おんぶしてくれるんですか?」
「お、おう…」
わたしの反応が意外だったのか面食らったような顔になった。しゃがみ込んだ中原さんの広い背中。そっと手を伸ばし、首に腕を回した。躊躇いがちに彼の手がわたしの太腿の裏を通った。ぎゅうっと抱き着くと、辞めろ、と慌てた声。
「…お前、くっつきすぎだろ」
「そんなことないですよ」
「生意気なことしてると放り投げるぞ」
「そしたら落っこちないようにもっとくっつきます」
えへへ、と笑ってみせる。ばーか、と低い声が返ってきたけれど、それは少し上擦っているような気がした。15分くらい歩くと、会場の最寄駅とその1つ先の駅の中間あたりの大通りに出た。

