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Quattro stagioni
第12章 スタンダールの幸福 Ⅶ♡
◇◆
俺だって、一応は男で、人並みに性欲はあるわけで。だからと言ってその欲を満たす為だけのセックスなど、したいと思ったことは一度もなかった。今になって、よくもまぁあれだけ長いこと我慢していられたな、と思う。
セックスがしたいから美月に惹かれたのかと問われれば、断じてそんなことはないと言える。いつの間にかするりと俺の胸に入り込んできて、俺を静かながらに翻弄する彼女が、そういったことを望んでいないのならば無理に手を出す気などさらさらない。
だが、欲望と闘う俺を嘲笑うように無邪気な美月は俺の手に触れたり、ふとした時に抱き着いてきて豊かな乳房を押し付けてきたりする。こいつ、煽ってんのかよ、と思うわけだ。俺にもプライドがある。性欲旺盛なガキのようにがっつくような真似などしたくない。
今の俺の状態を端的に表すならば、気もそぞろ、といったところだろう。話もしたい、触れもしたい。もっと言うと無性に抱き締めたくてたまらない。そして、抱き締めてしまえば歯止めが利かなくなることは目に見えている。
「……わたしと居ても、つまんないですか?」
「は?いや、そんなことは…、」
「だって、会ってからずっと眉間に皺寄ってます」
「それは…なんつーか、」
俺の眉間に皺が寄っていることが不満だというなら、俺にも不満がある。その短いスカートはなんだ、とか、やたらとくっつくな、とか色々だ。
美月の希望で都市型遊園地に行ってみたり、風致公園をふらふらと歩いてみたり。そうしながらも俺の視線はふわりと揺れる短いスカートから伸びる足や、胸元、口元に吸い寄せられる。いやいや、お前、それはねえだろ、と思って必死に視線を逸らしたことが何度あったか。
「話があるって言ったの中原さんなのに…ああ、とか、うん、とかそればっかり」
そこで、俺は気付く。夕飯でも食べながらさらりと言えやしないかと目論んでいたのは間違いだったということに。