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Quattro stagioni
第12章 スタンダールの幸福 Ⅶ♡
昼過ぎに落ち合ってから、あっという間に夕食時だ。やっとその時がきた、と力むというか、気を引き締めたところだったわけだが、ここまで話をせずにいたことで却って美月の不安を煽ってしまったようだ。
花火大会の晩に美月が求めていたのは俺の行動だっただろう。だが、今は俺の言葉を求めていることが痛いほどよく分かる。程よく照明の落とされた小洒落たイタリアンバルの店内。美月の手元にある甘そうなカクテルは殆ど減っていないのに反し、俺のビールは3杯目が残りわずかだ。
ここで、言うべきか。ああ、ちくしょう。もっといい店にすれば良かった。なんなら村澤さんともっと洒落た店をリサーチしておくべきだったのか。
「……この後、」
「この後?」
「中原さんの家に行きたいです」
「………お前、それ、どういう意味か分かってんのか?」
「分かってますよ。でも、ここまで言わないと手出してくれないじゃないですか」
「なっ…!お前なあ、」
「スカート短いのも、くっついたのも、全部そういうことです。気付いてくださいよ」
「……調子乗んなよ」
顔を見ていられない。残り少ないビールを乱暴に喉に流し込んで、美月の手と会計伝票をひっつかみ、立ち上がった。自分から言ったくせに顔を真っ赤にしてついてくる。多少は羞恥心があるのだろう。そんな美月にここまで言わせてしまったことが悔しかった。
会計を済ませて店を出るなり、タクシーに乗り込んだ。自宅マンションまでは30分もあれば到着するだろう。右隣に座った美月がそっとシートの上に手を投げ出した。そこに自分の手を重ねる。柔らかい肌の感触を確かめて、指を絡める。
自宅マンションのエレベーターの中で緊張を強いられるというのは初めての経験だった。その緊張を悟られないように玄関の鍵を開け、美月を誘う。玄関脇を占拠していた紙袋は先日ようやく処分することが出来ていた。