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Quattro stagioni
第3章 リングサイズ調査作戦
にやにや笑うと隣のデスクの中原さんと目が合った。不機嫌そうな顔で追い払うようなジェスチャー。
あのふたりは俺が晴れて志保さんの気持ちを手に入れてからもなんだかんだ友人と言う括りに納まっている。正直言うとそれはそれでかなり面白くないが、俺に志保さんの交友関係に口を出す権利はない。
「で、なんなの?」
会社近くのコーヒーショップを出て、買ったばかりのフラペチーノを美味そうに飲みながら津田が口を開く。
「ちょっとさ、さり気なく志保さんに薬指のサイズ聞いてきてくんない?」
自分用のカフェラテを一口飲んで言った。ついでに志保さん用にブラックコーヒーも購入してある。またか、と言いたげな顔をした津田は呆れたような溜息を吐いた。
「そんなのさ、本人に訊きなよ。晴れてお付き合いすることになったんでしょ」
「あのな、俺はね、あの人にとってはスーパーマンみたいな存在でありたいの。『わ!藤くんなんでサイズ分かったの?凄い!』って言われたいんだよ」
「都筑さん、そういうの言わなそうだよね」
「……俺も薄々そんな気はしてる」
志保さんという人は根がかなりドライなお方である。そんな人がベッドの上では必死に俺にしがみついてキスをねだる姿というのは下半身を熱くせずにはいられない。いや、この話は一先ず置いておこう。俺がいま一番関心があるのは志保さんの薬指の指輪のサイズだ。
「てかさ、都筑さんって誕生日6月じゃなかった?いま、10月だよ。知ってる?クリスマスって12月だよ」
「そんなの知ってるよ。別にプレゼントするのに誕生日かクリスマスじゃないといけない決まりなんかないだろ。俺の自己満足って言ったらそれまでだけど、俺は今、志保さんに指輪をプレゼントしたいんだって」
昨年、志保さんの誕生日が知りたくて津田に聞き出させたことを彼女はちゃんと覚えていたらしい。ちなみに志保さんが俺の誕生日を知っているかどうかは不明である。恐らく知らない可能性の方が高い。
「俺のものだって主張したいの?まじ藤のそういうとこほんと無理だわ」
「いいよ、お前に無理だって思われても。なあ、頼む。早急に薬指のサイズ調査してきて」
傲慢な独占欲。そんなことは充分、わかっている。だけど、彼女が自分の恋人になったと主張したいのだ。ふわふわとどこかへ飛んで行ってしまいそうなあの人に証を刻みたい。