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Quattro stagioni
第6章 スタンダールの幸福 Ⅰ

出ていきかけた溜息を飲み込んで、椅子の背もたれに身体を預ける。やっと、慣れてきたところだったのだ。やっと、この少し歪んだ関係に慣れて、苦い気持ちが込みあげて来なくなってきたところだったのに。

幸せを願っている。どんな形であっても都筑が笑っていてくれたらそれで良かった。そこに嘘はない。都筑の幸福な日々の根幹に藤が居るというのは正直気に入らないが、俺に口を出す権利はない。

ふと見ると藤が都筑に小さく手を振ってフロアを出ていくところだった。ふたりは一緒に帰るということをまずしない。大抵の場合、残業をしたがらない藤が先に会社を出て行く。

「お前も早く帰れよ」
「んー。日報チェックして、もうちょっと仕事したら帰るよ。ね、見て、清水くんの字、めっちゃ汚い」

へらりと笑って開いたB5のノートをこちらに見せる。罫線を無視した汚い文字。うわ、と漏らすと都筑は微かな笑い声を上げてノートを引っ込めた。

「なあ、お前が帰り遅い時、飯とかどうしてんだ」
「どしたの?そんなこと聞くの珍しい」
「別に。なんとなく気になっただけ」
「ふうん?…私が遅い日はたまに藤くんがご飯作ってくれてたりするんだ。焼く系と炒める系は完全に負けたね。藤くんのチャーハンは結構美味しい……ってこんな話聞きたくないか。ごめんね」
「いや、いい。聞いたの俺だし、お前が楽しくやってるならそれで、」

相変わらず都筑は料理の火加減というものを覚えてはいないらしい。こいつが目玉焼きだと称する卵の残酷焼きはとにかく苦くて、臭くて、しょっぱくて、最悪だった。藤の野郎もいっぺん食ってみればいい。あの苦味はしつこく口の中に残って数日は魘される。
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