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Quattro stagioni
第7章 スタンダールの幸福 Ⅱ

途中、都筑さんと清水くんと三人で昼休憩を取り、中原さんが戻るまでは都筑さんに面倒を見てもらった。彼女もわたしが思っていたほどおしゃべりな人ではなかったけれど、のんびりとした口調はとても優しくて、中原さんに色々と教えてもらう時ほど緊張せずに済んだ。

宣言通り、夕方に戻ってきた中原さんは機嫌が良いままだったのか、都筑にいじめられなかったか、と笑った。そうやって屈託なく笑う彼は普段よりかっこよく見える。なるほど、清水くんから見た中原さんはこんな感じなのかと思った。

「ねえ、浩志」
「……なんだよ」

だが、しかし。定時まであと数十分。この後はみんな揃ってアカネさんが幹事を務めるわたしと清水くんの歓迎会の店に移動するという頃になって中原さんの様子がおかしくなった。トイレかなにかで席を立って戻ってきてからだ。確かその時は都筑さんも姿がなかった。フロアに戻るまでの間になにかあったのだろうか。

わたしも業務に関して聞きたいことがあるのに、すぐ隣で都筑さんに冷たい声を投げたのを聞いてしまった所為で、それが憚られる。いやいや、仕事だろう。もじもじするな。唾を飲み込んで、あの、と口を開くとこちらを向いた中原さんの顔からは不機嫌さは消え去っていた。

「どうした?」
「あの…えっと、ここの入力なんですけど…」
「ああ、悪い。言ってなかったな。ここは、」

なにか、変だ。毎日帰りがけに見ていたぎこちない笑顔とも、今朝見た屈託ない笑顔とも違う。妙に圧のあるにこにことした顔。思わず凝視すると、貼りつけたみたいなにこにこ笑顔のまま、彼の双眸がわたしを捉える。

「他になにかあるのか」
「いえ、大丈夫です」
「そうか。またなんかあったらすぐ聞けよ」
「はい、ありがとうございます」

機嫌が良いのか悪いのかよく分からない。むむ、と出ていきかけた唸りを飲み込んで、PCへと視線を戻した中原さんの横顔を盗み見る。じわり、じわり、押し出そうとしていた『苦手』という感情が戻ってこようとしているのを察知。たぶん、中原さんへの印象が変わるのはもう少し先になるのだろう。
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