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Quattro stagioni
第7章 スタンダールの幸福 Ⅱ
にこにこしていたミヤコさんの眉間に皺が寄る。サワーらしき飲み物のグラスを空にすると、村澤さんに向かって口を開いた。
「私は1年目の夏くらいには結構鬱憤溜まってましたよ」
「それは主に藤に対してだろ。藤きもい、うざい、がお前の口癖になってたもんな」
「え、藤さんってなにかあれなんですか…?」
「いや、藤は色々あって…今は落ち着いたけど」
「ダメですよ、村澤さん。箝口令!怒られますよ」
「やべやべ。あいつ怒らせると面倒だ。ごめんな、まあ、見てればその内分かるから」
箝口令?怒らせると面倒なのは藤さんのことだろうか。全然そんな風には見えない。それに、村澤さんの口調からすると藤さんではない別の誰かを怒らせたくないみたいだ。
「同期は仲良くやってる?あ、ねえねえ、美月ちゃんって彼氏いるの?」
わたしが首を傾げているといつの間にか新しい飲み物のグラスを手にしてミヤコさんが詰め寄ってくる。清水くんに関しては程々だった。これといって仲が悪いわけでも、特別仲が良いわけでもない。それを素直に言うと、ミヤコさんはそのくらいが調度いいと笑う。
「……彼は就活でばたばたしている内に別れて…今は居ないです」
恋愛話をスルーしようとしたけれど、そうもいかず、再び問われたのでそこも素直に答えた。へえ、と意外そうな顔になったミヤコさんとは違い、村澤さんはなにかを面白がるような顔になった。
「うちでフリーっつったら東か…でもなぁ、あいつは我侭だから…お、中原はどうだ?」
「…え?」
ビールを飲みながらの村澤さんの言葉に目を見開く。中原さんは都筑さんと付き合っているのかもしれないと思っていたけれど、わたしの思い違いだったのか。
気になって個室内に視線を巡らせてみると中原さんの姿はなかった。確か真ん中の辺りで東さんや清水くんと飲んでいた筈だったのに。それに都筑さんの姿もない。
「あの、村澤さん…中原さんって、」
「村澤ー!お前ちょっとこっち来い!藤が生意気言うぞ、お前の指導不足だ!」
「あーもう…あの人出来上がってんな…悪い、ちょっと向こう行くわ」
わたしの問いかけは部長の大声に遮られた。半笑いで溜息を吐いた村澤さんは、いま行きますよ、とグラスを手に立ち上がる。気づけばミヤコさんも東さんに捕まっていた。