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Quattro stagioni
第8章 スタンダールの幸福 Ⅲ

気が付いたらあいつの為にオレンジ色のふわふわしたクッションを買っていて、気が付いたら洗面所にはあいつの歯ブラシと洗顔フォームがちゃっかり居場所を作った。それからあいつの部屋にはふたりで映画を観に行った日に買ったふざけたにわとりのプリントが入った俺のTシャツが置かれるようになった。

都筑が使っていた物にはもう出番など来ないだろう。いっそ捨ててしまえと無造作に全てを紙袋に突っ込んだはいいものの捨てることが出来ず、その袋は未だに玄関の脇に放置され埃を被っている。

― あいつ、あのTシャツどうしたかな

俺が何度も泊まったあの部屋からは引っ越したようだし、あの女のことだから案外あっさり捨てているかもしれない。家具の配置がよく似た部屋。ソファーに座る時は端と端で、間にもう1人座れそうな距離だった。

全て、過去だ。そんなもの踏みつけて進んでいかなければ俺はいつまでも立ち止まったままだ。まさか、こんなに引きずることになるなんて思いもしなかった。

だが、振り切ろうとすればするほど、忘れないでと言わんばかりに過去の都筑の顔が頭の中で甦る。バカみたいな量のアイスクリームをにこにこと食べる幼い顔も、真剣に本を読む横顔も、忘れたくたって忘れられない。

一番忘れられない顔がある。俺のベッドで安心しきったように穏やかに眠る顔。あいつは気付いていないだろうが、規則正しい寝息を立てるその顔を何度かこっそり見ていた。

たった、一度。本当にたった一度だけ、俺は、その寝顔に、

「やっぱり、ここに居た」

ぼんやりと瞼の裏に甦っていた暗い寝室の光景は凛と響いた声を合図に消えていった。はっと目を見開くと都筑がすぐ傍に立っている。

今は、お前の顔なんか見たくない。社外業務に出て戻ってからうっかり聞いてしまった部長と都筑の話し声の余韻が耳の奥で燻っている。無性に苛立ったのは恐らく気付かれているだろう。

「……なにしに来たんだよ」
「ちょっと話したかったから」
「俺は別にお前と話すことはない」
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