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Quattro stagioni
第8章 スタンダールの幸福 Ⅲ
配属からやっと2か月が経とうとしている。直接、後輩を指導するのは初めてのことなわけで、この距離感が遠いのか近いのかは判断しきれない。
村澤さんの時はどうだっただろうと彼の方を見ると、俺の出番?とでも言いたげな顔でグラスを傾けるジェスチャー。今晩は飲みに付き合ってくれるらしい。違う視線を感じてそちらを向けば森アカネがなんとも言えない顔でこっちを見ていた。
「おい、中原。お前、あれ、森と相談したか?」
「あれってなんですか」
のそりと現れた部長は首を傾げる俺とPCから顔を上げた都筑を見比べて、お前たち…、とうなだれた。その様から察するに都筑も俺と同じことを忘れているようだ。
「夏休みだよ、夏休み。特に都筑!お前は去年も申告遅かっただろ。今年はいらんのか」
「いや、いりますいります。ものすごーく取りたいです。至急申告します」
「お前らは新人と合わせろよ。残念だなぁ、都筑。新婚旅行はいけないな」
「一発殴りますよ。新婚じゃないですし、それに、」
俺の前でそんな話はするなと言いたいのだろう。都筑の顔が気まずそうに歪む。このゴリラめ。あんたは多少気を使ってくれ。すまんすまん、と豪快な笑い声を上げた部長は都筑の肩をばしばしと叩くと、笑い声そのまま去っていった。
「都筑先輩、新婚なんすか?」
「ちげーわ。首突っ込まなくていいから、仕事して仕事。ほら、そこの入力一段ずれてる」
「げ!すんません…」
「いまの作業落ち着いたら今日はもう切り上げていいよ。で、帰る前に夏休みいつ取るか相談しよう」
都筑の声に清水が短く返事をする。そう言えば、歓迎会のあった週の頭には部長から担当する新人と日程を合わせて夏季休暇を申告するように言われていた気がしなくもない。森とその話をしなければ、と彼女の方を向けば意外そうな顔で都筑のことを見ている。
「都筑がどうかしたのか」
「えっ、いや…その、」
「…?さっきの部長の話だけど俺は休暇どこでもいいからお前の取りたいとこに合わせる」
「あの…それって、都筑さんたちとはずらさないといけないんですよね?」
「ああ、まあ、4人同時は難しいな」
「で、ですよね…」
そう言って申し訳なさそうな顔をする。表情の変化の理由がよく分からない。