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Quattro stagioni
第8章 スタンダールの幸福 Ⅲ
喧嘩と言うよりも俺が一方的に怒鳴りつけただけだ。あんな子供っぽい真似をしたのはいつ以来だろう。
「…そういや村澤さんって新人持った時、誰でしたっけ」
焼き鳥はなににするかと問う村澤さんに、とりあえずレバーが良いと返してから本題を切り出す。目を丸くして漬物を咀嚼。ビールを煽って、薄らと笑う。
「お前のライバルだよ」
「……ああ、藤っすか」
最早、俺はあいつのライバルでもなんでもない。もっと言えば、昨年の時点でもライバルにすらなれていなかったんじゃないかと思う。あいつが俺の存在をどういう風に意識していたのかは定かではないが、俺が動き出した時点では手遅れだったのだろう。俺のしたことは自己満足の悪あがきでしかなかったのかもしれない。
「藤が新人の頃ってどうでした?結構、喋ったりとか…」
「あいつなぁ…あいつは最初っから都筑しか見てなかったからな。仕事慣れたかって聞いた俺に、都筑さんって中原さんと付き合ってるんですか?って返してきた時は絶句したね」
乾いた笑い声。俺なら絶句と同時に頭を叩いてやっただろう。
「藤のこと聞きたいのか?違うだろ。なんだよ、森ちゃんと上手くやれてねえの?」
「なんつーか、俺も直接持ったの初めてなんで…都筑と清水に比べると上手くやれてない方かと」
「おいおいおい、比べてどうすんだよ。お前はお前だろ。森ちゃんは清水より物覚え良さそうだろ、心配ないって」
「いや、だからこそ都筑が持った方が良かったんじゃないかって思うんすよ」
村澤さんが言う通り、森美月は物覚えも良く、学ぶことに対して熱心だ。だからこそ、俺よりも都筑の方が彼女の個性を活かして、伸ばしてやれるように思う。
「あ、つーか、森ちゃんフリーだってよ。どうよ、次の恋の相手に、森ちゃん」
「はあ?冗談きついっすよ。7つも下ですよ。それにあの子、多分俺のこと苦手だろうし」
「歳なんか成人してたらたいした問題じゃないだろ。いいんじゃね、苦手ってとこからふとした瞬間に…みたいな」
そう言えば、この人は昔から色恋に関心が強かった。正直言ってしまうと手が早く、女好きな方だったが、森アカネと付き合うようになってからはそれが嘘だったように彼女一筋になった。