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Quattro stagioni
第8章 スタンダールの幸福 Ⅲ
村澤さんが適当に頼んだ串盛りにはちゃんとレバーが入っていた。ほら食えよ、と寄せられた大皿。1本手に取って口に運ぶ。炭の匂いが鼻を抜けていく。
「……森と都筑ってなんか似てませんか」
「そうか?タイプとサイズ違くね?都筑はほら、でかいし」
「いや…まあでかいっすけど…なんか、こう目元が、」
「目元?森ちゃんの方が優しそうに見えるけどな。都筑のはきついっつーか」
「……村澤さんって都筑のこと嫌いなんすか」
「人間としては面白いと思ってるけど、女としては完全にタイプじゃねえな」
酷い言われようだ。そっくりそのまま聞かせてやりたい。もし、村澤さんがこんなこと言ってたぞなんてあいつに伝えれば、眉間に皺を寄せて憤慨するだろう。普段は澄ました顔をしているくせに些細なことで表情を崩し、感情をむき出しにするところを見るのは結構好きだった。
「お前と都筑が並んでると確かにしっくりくるっつーか、様になってたけどさ、お前と森ちゃんが並んでる様も俺は悪くないと思うぞ」
「……そうすか」
「意外と気強いかもなー中原さん!靴下脱ぎ捨てないで!とか言いそう」
「それ、村澤さんが言われてんすか」
「いや?アカネは優しいからな。もう、って言いながらにこにこ笑ってる」
惚気かよ。そんなことを聞きながら、都筑だったら冷たい視線を向けてくるだけでなにも言わないだろうなと思ってしまう。だから、これだ。これがいけないのだ。事あるごとにちらつく都筑の影。出てくるんじゃねえよ、くそ女。食べ終えた焼き鳥の串をテーブルの隅の器に放り込んでから宙を手で払う。
「顔見るだけでほっとするやつが居るってのは想像よりずっと力になる。お前の大好きな仕事ももっとうまく回るようになるって」
軽快に焼き鳥を食べながら言った村澤さんは穏やかに微笑んでいる。昔はもっとぎらぎらしていたような気がしたが、この人の角を落としたのは森アカネなのだろう。