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Quattro stagioni
第9章 スタンダールの幸福 Ⅳ
「おいおい、ふたりで壁の花か?」
「うわ…面倒な人が来た。ダメですよ、私はともかく美月ちゃんは飲めないみたいなんで」
「じゃあ森ちゃんの分、お前が飲めよ。ほら、」
「あとで怒られるの私なんですけど…」
「あいつって怒ったりすんの?迫力なさそうだけど」
「笑顔で怒られる恐さ知らないんですか?」
大きな手でお酒の入ったカップを器用にいくつか持った村澤さんが現れると都筑さんの顔に浮かんでいた悲しげな色が消えて、面倒くさそうな顔になる。事実、本人に向かって面倒だと言ってしまっている。
笑顔で怒る人は中原さんなのか。確かに、ここのところ妙ににこにこしている中原さんはちょっと恐いかもしれない。だけど、村澤さんは迫力がなさそうだと言った。部内の人で怒っても迫力がなさそうなのは、わたしの見た限りでは藤さんだ。
「……やっぱり、似てないよなぁ」
「なにがですか」
「いや?こっちの話。ちょっと、都筑、お前立ってみて」
「はい?心の底から面倒なんですけど」
「いいから。はい、森ちゃんも」
村澤さんに促されて立ち上がる。都筑さんは部内の女性の中で一番背が高い。それに反してわたしは一番小さい。ぱっと見ただけでも15センチくらいは違うだろう。
「立たせてなにがしたいんですか?」
「確認?」
「何故、疑問形……やだね、美月ちゃん、この人面倒だね、」
「は、はあ…」
苦笑いを浮かべたと同時に中原さんがこちらへ戻ってこようとしているのが見える。そう言えば、ついさっき彼を呼び寄せたのは村澤さんだったのではなかったか。中原さんに気付いた都筑さんは一言、二言、村澤さんになにか言うと、わたしには飲まされそうになったら逃げるんだよ、と優しく言ってフロアから出ていった。