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Quattro stagioni
第9章 スタンダールの幸福 Ⅳ

都筑さんが持ってきたチーズの小皿は中原さんのデスクに放置されたままだ。村澤さんは両手で持っていたお酒のカップをその小皿の横に置いて、中原さんの椅子に座ろうとしたけれど、さっとやってきた中原さんがそれを阻んだ。

「部長が村澤どうしたって言ってますよ。清水じゃ物足りない見たいです」
「まじかよ…見かけ倒しだな。東は?」
「東は帰りました。俺もそろそろ帰ります」
「俺、流石に今日捕まったら死ぬぞ。あれだ、藤を献上しよう」

中原さんの言葉通り、清水くんはかなり飲まされたのか床に転がされているのが遠くに見える。これは巷で噂のアルハラというやつじゃないのか。でも、女子はその被害に遭わず済むようなのでほっと胸を撫で下ろす。

「藤は逃げる気満々ですね。あの野郎…」
「あいつ逃げ足はえーからな。しょうがねえな…あの人早めに連れ出すか」

事前に聞いた話ではこの暑気払いの席は部長が会社を出ることがイコール、会のお開きの合図だという。それならば村澤さんが早めに部長を連れ出してくれればわたしとしては物凄く助かることになる。

そんなことを考えていると清水くんという屍を転がした部長が最早カップに注ぐのも面倒になったのか500mlのビールの缶を両手に持ってわたし達の方へとやってくるのが見えた。その姿はさながらゴリラのようだ。今日は黒いポロシャツだから余計にそう見える。

「都筑はどうした。都筑は」
「え、今日のターゲット都筑なんすか?あいつはどっか行きました」
「あいつめ…なら、森に酌してもらうかな」
「酌だけにしてやってくださいよ。ぶっ倒れたら洒落になりませんからね」

部長に釘を刺しながら彼の右手のビールの缶を中原さんが受け取った。連れ出し役の筈の村澤さんはいつの間に持ってきたのか空のカップをわたしに手渡すとミヤコさんたちの方へ行ってしまう。

少しくらい、付き合いで飲んだ方が良いのかな。有希と爽子はいつも美味しそうに飲んでいるし、そろそろわたしも美味しく飲めるかもしれない。そう思って部長と他愛のない話をしながら飲んだビールはやっぱり苦くて、頭がくらくらした。
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