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Quattro stagioni
第9章 スタンダールの幸福 Ⅳ
◇◆
なんだか、優しい匂いがする。それから頭が重い。ああ、そっか、昨日は慣れないビールを飲んでしまったんだった。もぞもぞと手繰り寄せたタオルケット。あれ?肌触りが違うような気がする。
はっと目を開く。ここは、どこだろう。モダンなインテリア。独り暮らしの狭いアパートじゃない。混乱する頭のままのそりと起き上がる。昨日、会社に着ていった服のままだ。
「…ここ、どこ?」
カーテンの閉った部屋。外からは日の光が差しこんでいて、ほんのりと明るい。シックな柄のカーテンのかかった窓の傍には大きな棚がある。本棚だろうか。ぐるりと室内を見渡す。磨りガラス製のパーテーションがこの部屋と別の部屋を仕切っているようだ。
どきどきしながらベッドから下りて、パーテーションを開けた。なんてお洒落な部屋だろう。音もなく、すっと開く。こちらに背を向ける形で広めのソファーが置かれたリビング。洒落ているけれど、なんとなく寂しげな部屋だ。
「…な、かはらさん……?」
そっとソファーに近寄ると、窮屈そうに中原さんが眠っていた。ということは、ここは中原さんの自宅なのだろうか。昨晩のことがよく思い出せない。どうしよう。彼に声をかけた方が良いのか。
「……ん、」
わたしがおろおろし始めると中原さんが小さく呻いた。眉間に皺の酔った寝顔。緩慢に動いた手は何かを探しているようだった。ふと見るとソファーの下にタオルケットが落ちている。息をひそめて、回り込んだ。タオルケットを拾い上げて、静かに中原さんの身体にかけた。会社に居る時とは違うTシャツとハーフパンツ姿。見慣れない姿に何故だかどぎまぎする。
「……づき、」
「え?」
名前を呼ばれたような気がした。恐る恐る寝顔を覗き込む。穏やか、とは言えそうもなかった。嫌な夢でも見ているのかな。どうしてこんなにも苦しそうなのだろう。