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Quattro stagioni
第2章 今宵は、新しいシーツの上で

チカが帰ってしまった。余計に部屋が広く感じる。とりあえずソファーの上で膝を抱えて座ってみる。ローテーブルに放り出したスマートフォンは鳴りやしない。その隣に転がる新居の鍵。くっついた宇宙飛行士のマスコットが私をじっと見ているように思えてそいつをうつ伏せにしてやった。

ひとり暮らし歴は長かった。高校卒業後からだからもう10年になる。いや、違った。途中は2年ばかり晶と同棲ごっこをしていたのだ。だが、彼と同じ部屋で過ごしていた時間は短かったし、殆どひとり暮らしだったと言っても過言ではない。

夕食をきちんと取る気にもなれず、ふらふらとコンビニに向かってミックスナッツと缶チューハイだけを購入して部屋に戻る。やっぱりスマホは静寂を保っている。しんと静まり返った部屋は居心地が悪く、テレビの音を大きくしてつけてみた。だが、さして面白くはない。

浴室だって藤くんが広いところが良いというからこの部屋にしたのに。引っ越し当日に居ないなんて。さっとシャワーを浴びて、寝室に布団を敷いてからもなんとなくリビングのソファーの上でブランケットに包まった。

「…………」

私は、今までどうやって過ごしていたのだろう。驚くほどに思い出せない。ああ、そうだ、本を読んでいたっけ。そう言えば藤くんと一緒に本屋に行ったときに買った恋愛小説は読んでないままだ。

本棚に収まったそれを引っ張りだして、チューハイを飲みながらページを捲る。いきなり主人公の大失恋から始まった。なんと、彼は結婚式を翌日に控えたところで同棲中の恋人に別れを告げられている。こんな話だったか。不吉過ぎる。

結局、3ページ読み終える前に本への興味は手放した。ブランケットに包まり直し、ソファーに横になる。ローテーブルの上に視線をやった。コンビニへ行って帰ってきてから再びうつ伏せになるように置いたキーホルダー。緩慢に腕を伸ばし、それを手に取る。

「早く、帰ってきてください」

手のひらの中、宇宙飛行士の胸のボタンを押したり放したりしながら呟く。淡い光が灯って消える。藤くんに電話を入れたらきっと飛んで帰ってきてくれる。だけど、そんな幼い我侭を言って彼を困らせたくなかった。もぞもぞと身じろいでソファーで丸くなる。もういっそ、このまま寝てしまおう。
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