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Quattro stagioni
第10章 スタンダールの幸福 Ⅴ

ジョッキ片手に満足げな横顔を見ながら不安に駆られる。村澤さんは7月の最終週である先週、1週間丸々都筑と共に遠方に出張に出ていたのだった。じろりと視線をやってから、とりあえず枝豆をつまむ。今日の店のそれは塩がよく利いていて美味い。

「……あいつに、余計なこと言ってませんよね」
「余計なことってなんだよ。いいよ、もう、都筑のことは。お前は森ちゃんだけ気にしとけって」
「いや…気にするっつったって村澤さんが言うような意味じゃないっすからね。ただ、俺は先輩として、」
「あー分かった分かった。なんでもいい。なあ、刺身頼んでいい?」
「……どうぞ、ご自由に。あ、ビールもお願いします」

程なくして刺身の盛り合わせとおかわりのビールがやってくる。小皿に満たした醤油にわさびを溶いてから。鯛らしき白身魚に箸を伸ばす。村澤さんはいつもいきなりツマから食べる変な人だ。

「はー、早く今週終わんねえかな…」
「今週乗り切ったら夏休みでしたっけ?」
「そうそう。今年は揃えられたからアカネの希望で台湾。いいだろ」
「……楽しそうっすね」
「お前、あれだろ、森ちゃんと日程一緒だろ。デートとかして来いよ」
「無茶苦茶な…不可抗力で揃えただけですし、俺は実家帰りますよ」

今週の土曜日から夏季休暇に入る村澤さんと入れ替わる形で俺は休みを取る予定になっている。確か、都筑は9月の第1週だった。でもって、藤はその次の週。藤は恐らく不満たらたらだろう。ざまーみろ。

「お前ね、楽しいこと盛りだくさんの夏に実家に引きこもるとかもったいないぞ。花火とかさ、ダメ元で誘ってみろって」
「俺が誘ったって困らせるだけですって」
「だからさ、困んないようにかるーく誘うんだよ。昼飯のノリで」

なんだそれ、と思う。昼飯だって毎回毎回俺が誘っているわけではなく、配属から1ヶ月の間だけ親睦を深める意味で部長に命じられ、一緒に取るようにしていた名残でしかない。
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