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第2章 私のフィアンセ～摂津凪子の依頼～

待ち合わせの喫茶店の一番奥の席に、事前の連絡通りに黒いスーツにストライプのネクタイを締めた男が座っていた。

凪子の視線に気付いたのか、男は立ち上がって凪子に軽く会釈をした。

すっきりとした目許が印象的な凛々しい顔立ちのその男は、乙女漫画などに出てくるなんでも完璧にこなす従順な執事を連想させた。
正直もっと下品な、軽薄で知性を感じさせない男だと思っていたので、軽く気後れしてしまう。

「すいません、お待たせしちゃって……」
「いえ、僕も今来たところですよ、凪子さん」

親密に笑いかけられ、凪子は思わず視線を逸らす。

「えっ……と、あの……」

なんて呼べばいいのか分からず戸惑っていると

「幸二朗ですよ。里野幸二朗」

男は当然のように凪子の元カレの名前を名乗った。
今回の打合せの前にメールのやり取りで依頼内容やこれまでのいきさつは話してあった。

彼が『里野幸二朗』になりきるつもりでいるらしいことは伝わってきた。