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仮初めの恋人
第2章 私のフィアンセ~摂津凪子の依頼~
「それじゃ、お願いできますか?」
「今のままでは無理ですね」

男は笑いを消して即答した。

「えっ……」
「考えても見て下さい。四年付き合ってこれから結婚しようと考えている男女がこんなにぎこちない感じだと思いますか?」
「それは……演技したら……」
「僕は役者じゃないんですよ。自慢じゃないけど学校の劇では村人Bの役でした。もちろんあなたも女優ではないでしょ?」

彼の言うことが正しくて言葉に詰まってしまう。

「じゃあ無理ですね。分かってるならわざわざこんなとこで会って話す必要なんてなかったんじゃないですかっ?」
「まあまあ……落ち着いて、凪子」

急に馴れ馴れしい口調に変わる。

「これから来週の日曜日までに打ち解ければいいんだよ」
「打ち解けるって……どうやって?」
「まず俺を『里野幸二朗』だと思って接すること。出来る?」
「そうか……そうね。確かにまだ時間はあるものね」

冷静な彼を見て、正体不明の怪しい人物という印象が少し薄れる。
さすがに幸二朗とは思えないが、芝居のパートナーとしては受け入れることが出来た。
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