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仮初めの恋人
第2章 私のフィアンセ~摂津凪子の依頼~
心拍数の早鐘は怒りだと心に言い聞かせる。
大きく手を上げて振り抜こうと力を籠めた瞬間、手首を掴まれてしまった。

怒りをぶつけることまで阻止され、凪子は怒りに満ちた視線で男を睨んだ。

「ッッ……」

仮初めの恋人の男は鋭い目で凪子を見詰めていた。
仄暗い焔を宿したような視線に晒されると冷たく燃えるような錯覚を覚える。
全身の毛穴がきゅっと締まるような恐怖心がこみ上げてくる。

「凪子は本気でお母さんを騙したいんだろう?」
「騙すって……そうよ。お母さんを安心させられるならなんでもする」
「じゃあ俺を……僕を幸二朗だと思うんだ。本気で恋人だと思わなきゃお母さんなんて騙せるわけないだろ。母一人娘一人で生きてきた相手だよ? 凪子のことなんてすべてお見通しなんだ。嘘じゃ、駄目なんだよ。本当のものに、しなきゃ」

闇を帯びた瞳はいつの間にか優しいものに変わっていた。
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