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囚われの天使たち
第3章 拉致(2)

男は奈津子のか細い首に、その鉄の輪をはめる。そして繋ぎ目を止めてから、外れないかどうかをちょっと引っ張って確認した。
奈津子はさっきの電流を見て、不安を感じ始めたのかもしれない。やや息が荒くなっている。
「大丈夫だ。電流を流したりはしない。お前が失敗したりしない限りはな」
そう言って、男は奈津子の両腕を鉄輪から外した。
●
胸が痛い。奈津子はそれを我慢するので精いっぱいだった。
昨日ペンチで抓られた胸が、今は紫色になっていて、だいぶ腫れている。その部分がシャツに擦れて痛みを感じるのだ。もちろん、頬も同じだ。血が出るほど強く締め付けられた頬は、やはり紫色の痣となり、今も痛みが続いている。
しかし、それを気にしている余裕はなかった。真弓は男に言われた作戦を成功させるために、精いっぱいに演技力を発揮しなければならない。そのために、今は男に買い与えられた黄色いワンピースを着ている。もともと来ていた学校の体操服では、奈津子が誘拐事件の被害者として知られてしまう恐れが高くなるからいけない、という理由らしい。
真弓は頭の中で繰り返していた。男に言われた作戦の順番を。
まず、路地裏に車を止めて、その脇で男が地面に倒れる。奈津子は誘拐のターゲットに声をかけ、「お父さんが倒れたから助けてほしい」と言って助けを求める。そうしてターゲットを男の近くまで誘い込んだら、不意をついて薬を嗅がせ、失神させて車に詰め込んで運び去る。
その際、なるべく人目を避けるために、ターゲットに声をかけてから車のそばまで誘い込むのに、奈津子は30秒以上かけてはいけない。男にそう言われている。もし失敗したら、
「電流を流すからな」
と言われている。

