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霞草
第5章 想い
いたずら心が芽生え、近づく彼女の顔に水をかけた。
「きゃっ…」
彼女が驚いてバランスを崩す。
「危ない。」
僕は彼女の手を引き、彼女を支えるように抱きしめてしまう。
鼓動は早くなる。彼女の鼓動も伝わり益々緊張する。
「ゴメン。ふざけてゴメン。」
でも、僕の手は力が入り、彼女をしっかりと抱きしめていた。
彼女は俯いたまま小さな声で、
「寂しくなるから、帰る時の話はしないで。まだまだ、いるんでしょう。」
と、つぶやいた。
「うん…。」
僕は彼女をぎゅっと抱きしめて答えた。
彼女は僕の腕の中にいる。
僕を拒まないでいてくれる。
僕は彼女への想いを告白したかった。
でも、伝えたところでどうなるのだ。
自分の進路さえ決まらない僕は、彼女に何をしてあげられる?何の約束ができる?
ならば、彼女への想いは胸のうちにしまっておくべきだ。
僕は彼女の肩に手をかけてゆっくりと離した。
間近でみる彼女の瞳、柔らかそうな唇に引き寄せられ、触れてみたいと思ったが、ぐっと堪えて離れる。
「ゴメン、ふざけて、帰る話はもうしないよ。」
そう言うのが精一杯だった。