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淫の館
第6章 脱走

ジジッ…ジジッ…

見ているのも辛くて、再び目を瞑る。

男の指が押さえる位置でどれほど進んだかがわかった。

女の命と言っておきながら、それを奪う男。

そう、私はもう、逃げる道を絶たれて、死んだのだ。

悔しくて、悲しくて、涙が溢れ続けた。


ジジッ…ジジッ…プツッ…

剃り落とした毛束を男が掴んだようだ。

「箱を…
箱にしまって命をもらう。
見納めになるぞ、見なくていいのか?」

目を開けると、弟子が長い桐の箱を差し出していて、男が掴んでいた毛束を納めた。

それが凄く長く感じたのは根元からの長さだからだ。

桐の箱に和紙の紙がのし紙のように貼られ、『下』と書かれた。

とうに失った名前とともに命が封印された。


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