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アナザーストーリー【快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体】特別編
第34章 謎のセコンドの男
カズはプロデビュー戦でこのKINGDOMの大会の第一試合、おまけにこの大観衆の中でやや緊張している面持ちだ。

「大丈夫かなぁ、カズ。アイツこの雰囲気に飲まれなきゃいいんだがなぁ」

ヒロトは心配そうな顔で青コーナーで少し落ち着きの無いカズの様子を見ていた。

「しかしデビュー戦がこんな大会場って、アイツスゲーよな」

オレはカズと3年間過ごした寮生活を思い浮かべた。

当初は口数が少なく、コミュ障で引っ込み思案だった。

小久保さんの教えで総合格闘技をやるようになってからは、素質があったせいもあるが、オレやヒロトよりも練習量が多かった。

後で聞いた話だが、カズは一年生の時の夏休みと毎年正月の三が日だけ帰省して、長期休暇中は二年生や三年生になっても寮に残り、小久保さんがインストラクターを務めるジムでハードな練習をして、その後も寮で小久保さんとマンツーマンでスパーリングをしていたという熱の入れようだった。

カズにしてみれば、中学生までは、人と上手くコミュニケーションを取れず、殻に閉じこもっていた。

そんな自分を少しでも変えたいとカズなりに考え、全寮制の高校に入学して、人との輪や協調性を養おうとした。

そこでオレやヒロトと知り合い、3年間同じ部屋で寝食を共にした。

そしてカズに追い風が吹くように総合格闘技に触れ、自分のやりたい事はこれだ!と思い、周囲の反対を押しきり、ジムに近い教育学部に進学し、アマチュア大会で腕を磨き、念願のプロデビューにこぎつけた。

オレもヒロトも、あの目映いリングに立っているカズは、オレたちの高校時代の象徴のように思えた。


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